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静岡大学グリーン科学技術研究所・キノコ科学研究所・生物化学研究室セミナーのご案内です。
同種・異種微生物間における化学コミュニケーション
甲斐 建次 准教授(大阪公立大学大学院農学研究科生命機能化学専攻)
日時:2023年4月21日金曜日15:00-16:30 静岡大学農学総合棟201室
微生物は、化学物質を介して互いにコミュニケーションをとる。同種の場合は、細
胞間で協調的な挙動を引き起こすためであることが多い。異種間の場合は、微生物ど
うしの共生や寄生、拮抗などがある。特に根圏では、植物をも含めた複雑な生態系が
成り立っており、植物と積極的に相互作用を繰り広げる微生物間でドラマがある。私
は、このような微生物の化学コミュニケーションで機能している情報分子あるいは生
物活性分子の化学と生物学について研究している。本セミナーでは、私のグループで
の研究を中心に紹介する予定である。
1. 青枯病菌と宿主間の相互作用で機能する化学コミュニケーション
青枯病菌Ralstonia solanacearum は、ナス科を中心とした250 以上の植物種に感染
するグラム陰性の植物病原細菌である。青枯病菌は、同種の菌密度に応じた遺伝子発
現調節機構であるクオラムセンシング(QS)を利用して、植物への感染段階に応じた
機能発現を行う。最近になって、青枯病菌が土壌真菌へも感染することが明らかにな
った。我々は、植物と真菌の両方の感染過程におけるQS 機構の重要性について調べ
ている。それらの知見を紹介したい。
2. 微生物間の拮抗現象に関わる細菌性ポリイン化合物
微生物間の拮抗現象は古くから知られており、そこに介在する化合物から天然物化
学的に興味深いものが数多く報告されてきた。しかし、中には長年、どうしてそのよ
うな拮抗現象が引き起こされるのかが不明であったものもある。細菌性ポリイン化合
物は、末端から共役した炭素-炭素三重結合を持つため、化学的に極めて不安定で適
切な処理なしには安定的に抽出して分析することすらできない。我々は、微生物拮抗
現象のいくつかにポリインが関わることを見出してきた。細菌性ポリインの化学と生
物学的な特性について紹介したい。
参考文献
1. Kai K. Annu. Rev. Microbiol. in press (2023).
2. Tsumori C. et al., Microbiol. Spectr. in press (2023).
3. Kai K. et al., Org. Lett. 20, 3536 (2018).
4. Murata K. et al., ACS Chem. Biol. 17, 3313 (2022).